[11月9日(火)10:25〜11:05]

基調講演
リアルGISによる都市再生:
ハイパーテキストシティの原理
斎藤 参郎氏

福岡大学 都市空間情報行動研究所 所長

福岡大学経済学部・教授

概要

 現在、福岡大学都市空間情報行動研究所(FQBIC)では、「ハイパーテキストシティ構想」を提唱している。この構想は、リアルGISの活用によって、都市に新たな魅力を創出し、来街者の回遊を促進させることで、中心市街地の活性化や都市再生に結び付けるという構想である。本講演では、これまでの福岡市都心部での回遊行動研究の成果にもとづいた「ハイパーテキストシティ構想」の原理を述べるとともに、その実現にむけた産官学連携を九州から提言する。

● リアルリンク革命とリアルGIS 近年、ETCやSuicaにみられる非接触型のRFタグの携帯電話への装着、携帯電話のデジタルカメラによる2次元コードの読み取り、さらには、GPS付き携帯電話による位置特定など、モバイルインターネットの進展と相俟って、人やモノのトレーサビリティに大きな変化が起こっている。 しかし、その変化の核心は、人やモノ、場所といったリアルなオブジェクトと、その背後にあるバーチャルな意味情報との、「ヒモづけ」を可能とした「リアルリンク技術」の革新にある。現在、我々は、いわば、「リアルリンク革命」の真っ只中にいる、といえる。このようなリアルリンク革命が、携帯電話と結びついたことで、リアルとバーチャルが複合した新たな世界が、知的モバイル端末へと進化した携帯電話によって、実現できることになる。 これまで、伝統的に、GISというと、バーチャルな空間上での位置情報と地理情報との「ヒモづけ」に過ぎないことが多かった。リアルリンク革命のもとで、GISは「リアルGIS」へと進化する。 いくらGIS上で、交通事故多発地点を図示したとしても、バーチャルリンクに過ぎない。事故多発地点といった、場所の背後にある意味情報が、カーナビの現在地点と連動し、運転者に、「この地点は事故多発地点ですよ」、と警告できて、はじめて、「リアルリンク」となる。これがリアルリンク革命による「リアルGIS」の世界である。

● 回遊行動と都市再生 さて、福岡大学都市空間情報行動研究所(FQBIC)では、都心部における消費者の回遊行動の研究をおこなってきた。 回遊行動とは、消費者の都心部での渡り歩き行動のことである。FQBICでは、これまで10数年にわたって、福岡都心部を中心に消費者の回遊行動調査を継続して実施し、どのような目的で、どこに立ち寄り、いくら支出したか、の消費者の回遊行動履歴マイクロデータを収集・データベース化している。 都市計画や交通研究の分野では、このような小地域での多目的トリップチェインのデータはほとんど収集されておらず、ましてや、消費行動との連結も全く考慮されてこなかった。また、マーケティングの分野でも、個店でのPOSデータはあるものの、消費者の異なった商業施設間の併訪や併買に関するデータの採集はほとんど無視されてきた。これらのデータは、都心における消費者の空間選択・消費行動の履歴データである点にその意義がある。 実際、これらのデータを用いて、来訪者数からみた福岡市天神地区の重心が大規模再開発により105m南下したことを実証した。また、回遊誘発による福岡都心100円バスの経済効果が年間109億円になることも検証した。これは空間選択と消費行動との同時記録データによってはじめて可能となったものである。 このように、回遊行動研究を通して、都市の活性化には、集客力のアップと回遊促進が大きな効果をもつことが分かってきた。

● まちの魅力と「まち歩きの情報展開」 回遊を誘発することで経済効果が期待できる。しかし、人々の回遊を促進させるためには、まちに魅力がなければならない。 FQBICでは、まちの魅力とは、まち歩きによる意外性や新たな情報の発見にある、との仮説を提唱し、これを「まち歩きの情報展開」と呼んでいる。事実、人気のある街や商業施設には、入り組んだ細街路や曲線を用いているものが多いが、これは「まち歩きの情報展開」をハードな施設づくりによって実現したものと解釈できる。FQBICが提唱している「ハイパーテキストシティ構想」とは、「まち歩きの情報展開」やまちの魅力を、ハードな施設づくりではなく、ITによって、うまく引き出す仕掛けについての構想である。

● ハイパーテキストシティ構想 「ハイパーテキストシティ」とは、ハイパーテキスト化したまちなか情報とユーザが知的モバイル端末を介して、意味的相互作用をおこなえる都市のことである。それを実現する「まちなかリンクシステム」は、2次元コードなどを利用し、位置情報をともなった「まちなかリンク」を一定の地域に高密度で配置したシステムである。「まちなかリンク」とは、モノ、場所に埋め込まれたリンクであり、位置情報をもち、自分の実体を説明するテキスト、モノへのリンクをもったエージェントである。つまり、「リアルリンク」をまちなかで実現したものに他ならない。 来街者は、まちなかリンクを携帯電話によって現場で読み取り、モノや場所の背後にある新しい情報や意外な情報を発見するとともに、まちなかリンクをたどりながら、回遊が誘発される、新しい「まち歩きの情報展開」が可能となる。つまり、都市に新たな魅力が付け加わったことになる。 「ハイパーテキストシティ構想」が実現すれば、リアルGISによって、新たな都市魅力が創出され、来街者の回遊性が高まり、回遊促進による経済効果が生みだされることになる。

● リアルGISによる都市再生 「ハイパーテキストシティ構想」は、回遊促進による経済効果とともに、新たなビジネスモデルや新産業の創出によって、中心市街地の活性化と都市再生に寄与しようとする構想である。その実現に向けた産官学連携を九州から提言する。

プロフィール

1948年神奈川県生まれ
福岡大学都市空間情報行動研究所・所長、
福岡大学経済学部・教授、
博士(工学)

専門分野:都市計画、地域経済、社会工学、消費者行動分析、まちづくりマーケティング、データマイニング

著書:Extensions of Iterative Proportional Fitting Procedure and I-projection Modeling, Kyushu University Press, 1998

東京工業大学工学部社会工学科助手(1977−1979)、佐賀大学経済学部管理科学科助教授(1979−1984)を経て、1984年より、福岡大学教授。この間、福岡大学経済学部長(1989−1991)、ペンシルバニア大学客員研究員(1994−1995)、福岡大学大学院経済学研究科研究科長(1999―2001)を歴任。2000年より、福岡大学都市空間情報行動研究所長に就任、現在に至る。

学会では、日本オペレーションズリサーチ(OR)学会理事・日本OR学会九州支部支部長(2002−2004)。現在、日本地理情報システム学会(GISA)理事・日本地理情報システム学会九州地方事務局長(2002−)、日本地域学会理事(2003−)、日本不動産学会理事(2004−)を務める。

「都市研究におけるGISの活用例」(2002年11月14日、全国国土調査協会主催 平成14年度第3回利活用研修会)、「まちをハイパーテキストへ−まちづくりマーケティングのビジネスモデル−」(2003年9月17日、九州経済フォーラム主催 九州経済フォーラム平成15年度第1回車座談義)、「人の集まるまちづくり−都市の魅力はこうしてつくる−」(2003年9月30日、姫路商工会議所主催 まちづくりセミナー)など、講演多数

詳しくは、福岡大学都市空間情報行動研究所HP(http://www.qbic.fukuoka-u.ac.jp)をご覧ください。